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勝手に大河ドラマ「三好長慶」第24章 犯人は・・・

大河ドラマ

<<第23章>>

■第24章 犯人は・・・ 

「甚次郎殿、三好政長殿からの書状は読んだか?」
「はい。万が一の場合には、引接寺の六郎様をお守りするために、顕本寺の元長を背後から攻撃してほしいということですね」
 細川尹賢(天邪鬼)を討ち取り、自殺に見せかけて淀川へ流した木沢長政(天狗)は、摂津富田に引き返して、柳本甚次郎と謀議に及んでいた。
「わしは、この書状を口実にして、河内八箇所へ兵を進め、代官職を押領しようと考えておる。お主も同じく、京の三条城に戻り、柳本賢治殿が築いた山城や大和の権益を維持すればどうじゃ?」
「そんなことをすれば、三好元長に滅ぼされるのでは?」
「わしらは先の大物崩れで、ほとんど戦わずに京を撤退したから、兵を温存できている。一方で、元長はかなりの兵をすり減らしたはずじゃ。それに堺で籠城しているなら、そのための兵も割いているはずじゃ」
「大丈夫ですか?もし三条城が攻められたら、助けにきてくださいよ」
「助けにいくとも。わしは賢治殿とは兄弟分だったのだぞ」

 堺・顕本寺の三好元長の屋敷の秘密道場では、四兄弟が鍛錬に励んでいた。
 元長の長男・千熊丸(後の三好長慶)は、弟たちが見守る中、先生に投げられている。
「よいか、今見せたのが基本的な投げ技じゃ。投げられた者は、千熊丸のように、しっかりと受け身をとるのじゃ。千満丸と千々世よ、組み合った状態からやってみよ。殴る蹴るはなしじゃ。押したり引いたり、足をかけたりして、相手の体勢を崩してから投げるのじゃ」
 次男・千満丸(後の三好実休)と三男・千々世(後の安宅冬康)は乱取りを始めた。
 何本か行ったが、ほとんど千満丸が勝った。体勢を崩すというより、体の大きさと腕力を活かした勝利だった。
「やっておるな」
 元長が入ってきた。
「よし、二人は休憩じゃ。わしと元長が手本を見せてやろう。元長、皆の手本になるように軽くやるのじゃ」
 先生と元長が乱取りを開始した。
 軽くと言いながら、やはり段々と力が入ってくる。
 先生は、飛びつき腕ひしぎ逆十字固めを決めた。元長は先生をトントンと叩いた。
「参りました」
「ついうっかり関節技をやってもうた。わしの反則負けじゃ」
「では引き分けということで」
「よし、千満丸と千々世、もう一度やってみよ」
 先生の指示で二人は組み合ったが、以後はすべて千々世の勝ちだった。千満丸は泣きそうになっている。
 大げさに言えば、北斗の拳のラオウ(剛の拳)とトキ(柔の拳)の戦いのようなものである。覚醒したトキ・千々世が、バランス感覚とセンスで、ラオウ・千満丸を圧倒している状態だ。
「千々世の足さばきは、お主の父の長秀に似ておるぞ」(第6章参照)
「先生の体さばきを見て、会得したのでしょう・・・千々世のほうが強くなるな・・・安宅へ養子に出すのは千々世にします」
 先生と元長は小声で話し合った。
「千満丸、こっちへ来い!助言をしてやる」
 千熊丸は千満丸を隅に呼び寄せた。
「千々世は足さばきが変わったぞ。なのに、お前は上半身ばかり見て、足元がおろそかになっている。千々世の足の動きに注意するんだ」
「さすがは兄者!一日の長があるな」
 千満丸は喜んで戻っていった。
「千々世、お前にも助言をしてやる」
 千熊丸が呼びかけると、千々世が駆け足でやってきた。
「お前が勝ち過ぎると、千満丸が泣いて、やる気をなくしてしまう。勝つのは半分くらいにしてくれないか。頼む」
「分かりました」
 千々世は空気が読める優しい男子なのである。
 二人の勝負は五分五分になった。
「父上は、先生に負けたの?」
 四男の孫六郎(後の十河一存)が、泣きそうな顔で千熊丸の袖を引っ張って尋ねた。
「いや、引き分けだ。本当は父上のほうが先生より強いんだ。阿波では必殺技で先生を投げ飛ばしていたぞ。父上の必殺技の『竜巻旋風投げ』を教えてやろう」
 千熊丸は孫六郎の両手をとって、ゆっくりと旋回した。
「父上の必殺技は楽しいなあ」
 孫六郎は喜んだ。

「元長兄の恐ろしい投げ技で、一騎打ちを挑んだ柳本賢治の兄貴も、気を失うほど吹き飛ばされたと聞いています。元長兄ひとりだけでも一騎当千で、もしここで大暴れされたら、何人でかかってもすべて殴り殺されるでしょう。元長兄の兵も屈強で、山城の戦いでは、朝倉宗滴の200騎の精鋭を、軽々と討ち取っていました」(第17章第10章参照)
 堺・引接寺で、三好政長は細川六郎らに語った。
「私も、両手を背中に組んだ状態の元長様に、投げ飛ばされました。元長様の家臣の皆様も、武芸の達人ぞろいです」(第9章参照)
 六郎の奉行人となっている茨木長隆(茨木童子)も言った。
「元長も家臣も兵も桁違いの強さだ。天王寺や中嶋の戦いでは、圧倒的な兵力差があるにもかかわらず、高国方の武将らもあっさりと討ち取っていたぞ。元長らの強さは、日の本一ではないか」(第21章参照)
 細川晴賢も証言した。
「元長らの強さを訊いたわしが馬鹿だった・・・」
 細川六郎は頭を抱えて震えた。
「彦九郎は顕本寺で元長らと共にいる。お主は彦九郎に刃を向けたのだ。彦九郎が、お主に代わって細川京兆家の当主となるために、元長にお主を討てと命じる可能性もある。顕本寺との間の甲斐町通沿いには、翁橋から防壁を巡らせて、南北の行き来を遮ったが、元長が本気で兵を繰り出せば、我らは何日もつか・・・」
 可竹軒周聡は言った。
「兄弟同士の殺し合いなど、昨今は日常茶飯事だしな。堺公方・足利義維様と将軍・足利義晴様も、実の兄弟だ」
 細川晴賢が言った。
「どうしたらよいのだ・・・政長、良い知恵はないのか?お主は名軍師なんだろ?」
「万が一に備え、河内の木沢長政と、賢治の兄貴の跡を継いだ柳本甚次郎、池田信正ら摂津国衆に、元長兄が攻めてきた場合には、顕本寺を背後から突いてもらうよう、既に書状を送っています・・・しかし、六郎様のお命が危ういことに変わりはありません。彦九郎様と早々に和睦し、今の籠城の状態は解消すべきです。ここは、六郎様の義兄の畠山義堯様に取り持っていただくのがよろしいかと思います」

「ということで、私が来た」
 顕本寺に、河内国守護・畠山義堯(よしたか)がやってきた。
「義弟にも困ったものだ。しかし、このような至近距離でにらみ合うというのも物騒だ。堺の町衆も迷惑している。彦九郎殿、そろそろ許してやってはどうだろうか?」
「兄上が頭を下げて謝罪するなら検討します」
 彦九郎は答えた。
「義堯様、少々よろしいでしょうか?実は、義堯様の家臣の木沢長政が、河内八箇所へ兵を進め、代官職を押領しようとしているのです。兵を出して排除してもよろしいでしょうか」
「それは申し訳ない。手間をかける。存分に叩きのめしてやってくれ・・・ところで、赤沢次郎殿はおられるか?」
「はい、私です」
「この書状に見覚えはないか?」
 義堯は次郎に、赤沢幸純から渡された血まみれの書状を見せた。(第17章参照)
「私が差出人になっていますが、このような書状を出した覚えはありません」
「やはり、偽物か・・・いざとなれば、これを口実にしてもよいな・・・元長殿、木沢長政攻めには私も兵を出す。長政は討ち取ってくれても構わない」

「こ、こんなに強いとは。兵の数ではこちらが勝っているのに・・・飯盛城へ撤退じゃー!」
 8月、長政勢は元長勢の攻勢に敗走した。
「お主は堺の細川六郎様のところへ行って、助けを求めてこい!」
 長政は、馬廻りの一人に命じた。

「木沢勢は、鎧兜はきらびやかじゃが、弱いのう。五月人形かと思うたぞ」
 三好家長(柚爺)の冗談に、元長と義堯は笑った。
「さて、飯盛城を攻め落とすか。義堯様、長政殿を殺してもいいのですね」
「構わない。もしかすると、すべての元凶は、長政かもしれん」
「お待ちください!」
 三好政長が陣に飛び込んでた。
「六郎様が、今回だけは兵を退いてくれとお願いしておられます。長政を失えば、他の大名につけ入る隙を与えてしまいます。それに、長政には、私の妹が嫁いでいます。何とぞご容赦を!」
 政長が土下座した。
「義堯様、どうしましょうか?」
「元長殿が、河内八箇所さえ脅かされなければよいというのであれば、私のほうも十分に灸は据えられたと思う。どうだ?」
「私はそれで問題ありません」
「では政長殿、長政から、二度と押領しないとの誓紙をとってきてくれるか。それが確認できたら兵を退こう」
 元長と柚爺、義堯は飯盛山から兵を退いた。

「刀を向けて、すまなかった・・・」
 12月、堺・引接寺で、六郎は彦九郎に渋々頭を下げた。
「これからも兄弟で支え合って行きましょう」
 彦九郎は六郎に前向きな言葉をかけた。
「このような場で申し訳ありません。柳本甚次郎殿が軍勢と共に、京の三条城に入り、代官職の横取りを始めました」
 元長が発言した。
「今度は甚次郎殿か・・・」
 義堯が嘆いた。
「武力で排除しますが、よろしいですね」
「・・・もちろんじゃ。ただ、甚次郎は殺さないでやってくれ。柳本勢をまとめる者がいなくなってしまう」
「承知しました」
 六郎の指示を、元長は了解した。

「あーあ、毎日走らされてばかりかよ。これなら尼崎にいたほうが良かったんじゃないか?」
「そろそろ武器の扱いくらい教えてほしいよな」
「この衣紋掛けは武器になるんじゃないか?」
「こら鉄矢!こんな狭いところで衣紋掛けを振り回すな!」
「おお、相変わらず元気にやっとるようじゃのう」
 三好一秀(瓜爺)が、堺の海船政所で、優作・鉄矢・辰夫のいる兵舎を覗き込んだ。
「瓜の爺さん、久しぶりだな」
「口の利き方がなっとらんのも相変わらずじゃな・・・お主ら、初陣じゃ。京で一戦やる。用意せい」
「俺たち、武器の扱いも教えてもらってないんだけど」
「お主らは、わしのそばにおればよい」
「楽な仕事だな」
「楽じゃが、矢が飛んで来たら、わしの盾になってくれ」
「えええっ?」
「半分嘘じゃ。わしの荷物持ちをせい」
「半分は本当なのかよ!」

「三好勢が攻め寄せてきた。木沢長政殿に伝令を送って、援軍を求めろ。このままではまずい」
 享禄5年(1532年)1月、甚次郎は家臣に指示した。
「これから城攻めじゃ。もう一度言うが、甚次郎は殺すな。生け捕りにせよ。よし、かかれー!」
 総大将の瓜爺の号令で、兵らは三条城に攻撃を開始した。
 長政は援軍要請を無視。甚次郎を見殺しにした。
 1月22日に、三条城は落城した。

「おい、甚次郎は見つかったか?」
「まだ見つからねえ」
 瓜爺の問いに、加地為利(一つ目)が答えた。
「小僧共、お主ら3人も、甚次郎を探せ。この城の中に隠れているはずじゃ」
「甚次郎って、どんな奴だ?」
「丸顔で、目がぱっちりとしていて、歯がやたらと白く、腹の丸い、小太りな19歳じゃ」
「俺たちに任せとけ!細川高国(ぬりかべ)みたいにすぐに見つけてやるよ!」
 書き忘れておったが、わしがキャスティングするなら、柳本甚次郎と柳本賢治は、チョコレートプラネットの松尾駿さんの一人二役じゃ。

「お前、柳本甚次郎だな?」
 土蔵の奥で、顔に木綿を巻いた男が尋ねた。
「見つかっちまったか・・・命だけは助けてくれ」
「ダメだ。もう退却はさせねえぞ。自害するか、俺に斬り殺されるか、どちらか選べ」
「くそう・・・腹を切るから、介錯してくれ」
「分かった」
 男が甚次郎に近づくと、甚次郎は男に飛びかかった。
 もみ合いになったが、男は甚次郎の脇差を抜いて、それを甚次郎の腹に突き刺した。
 男は、はだけた衣服を整え、去っていった。

「おい、この土蔵の奥で、何か光ったぞ」
「歯だ!歯が光ってる!」
 優作・鉄矢・辰夫は、苦しそうに歯を食いしばっている甚次郎に走り寄った。
「お前、甚次郎か?」
「・・・そうだ・・・くそう、左胸に、赤い蝶のようなアザのある男にやられた」
「赤い蝶のアザ?」
「どんな顔だ?」
「分からなかった。白い木綿の布で顔を覆ってやがったんだ」
「辰夫、瓜の爺さんを呼んできてくれ!俺たちは見張っておく!」
「任された!」
 辰夫は走った。何故いつも一番足の遅い自分が走らされるのか疑問に思いながら。

「甚次郎が殺された。脇差を腹に刺されてな」
 瓜爺が、城の広間に主だった者を集めて言った。
「自分の脇差で自害したんじゃないのかよ」
 三好康長(ヤス)が言った。
「いや、この小僧らが、甚次郎の今わの際の言葉を聞いたのじゃ。左胸に、赤い蝶のアザのある男に殺されたとな」
「誰がやったんだ?」
「命令違反だ」
 家臣らがざわついた。
「皆、左胸を見せてみよ」
 広間の者は全員左胸をはだけた。
犯人はヤス、お前だー!」
 辰夫が叫んだ。
「おいおい、赤いアザなんて、みんなついてるだろ?・・・えっ、俺だけ?」
「ヤス、元長はあいさつのように、皆の左胸を拳で叩いてくるが、しつこく叩き合っているのは、お主だけじゃ・・・」(第2章参照)
「嘘だろ・・・」
「ヤス、観念して自供しろ」
 鉄矢が言った。
「おい、待てよ・・・」
「真実はいつも一つなんだよ。嘘を吐く奴には、誰もついてかねえぞ」
 優作が言った。
「分かったよ。俺だよ。俺がやりました。だってあいつら、京でずっと俺たちを邪魔してくるしよお。あいつをやんないと、また代官を横取りしてくるはずだって。それに、伊丹元扶(もとすけ)殿の仇も討ちたかったんだ・・・」
「気持ちはよく分かるが、命令違反じゃ。元長に報告する」

「元長、腹を切れ。命令違反の罪を償え」
 堺・引接寺で、六郎は元長に命じた。
「元長、腹を切らなくていい。甚次郎は殺されても仕方なかった」
 彦九郎がかばった。
「腹を切れ」
「切るな」
「切れ」
「切るな」
 六郎と彦九郎の押し問答が延々と続いた。
「もうやめよ!間をとって、坊主!関係者全員、坊主!」
 可竹軒周聡(かちくけん しゅうそう)が鶴の一声を発した。
 元長、瓜爺、ヤス、為利、塩田胤光親子、戦に参加した下山城の郡代など、総勢80人が坊主になった。

「待てー!お前らも坊主だー!」
「俺らは関係ねーだろ!」
「連帯責任だー!」
「お前だけ坊主になっとけよ!」
 海船政所で、坊主のヤスが、優作たちを追いかけていた。

<<続く>>

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