■転生したら、ゆるキャラだった件

プロフィール

無念じゃ。無念過ぎるにも程がある。将軍になって、わずか8か月で、病死してしまうとは。

わしは室町幕府14代将軍・足利義栄(あしかが よしひで)である。征夷大将軍として、現在の高槻市・富田の普門寺に、城を構えておった。

13代将軍・義輝は剣豪将軍、15代将軍・義昭は室町幕府最後の将軍として名が知られているのに、14代のわしのことを知る者はほとんどいない。ゆえに、影の薄い将軍、存在感のない将軍、ひどいものでは戦国期最弱の将軍などといわれているそうじゃが、不当な評価も甚だしい。

病気さえなければ、富田・普門寺城から、京へ上り、諸侯を従え、やがては天下を獲っていたはずである。病気さえなければ・・・

そんな無念を抱えながら、他の亡者らと共に三途の川を渡り、よろよろと地獄への道を歩む。しかし大渋滞である。一向に進まない。何日過ぎたのかも分からなくなったある日、「足利義栄だな?」と背後から声がする。わしが振り向くやいなや、屈強な2人の鬼に両腕を掴まれ、あっという間に亡者の列から引きずり出された。そしてそのまま連れていかれた小屋には、要領の悪そうな小役人風の男が座っている。

男は巻物に目を落としながら言う。

「え~っとですねえ、戦国時代になって、急にたくさんの亡者が地獄にやって来ました。そのために、対応がまるで追い付いていない状況です。しかも、戦国時代という特殊な事情があるので、人を殺したからといって、単純に殺生の罪とすることもできず、亡者が直接間接にかかわった殺人・傷害について、長々とした判決文も書かなくてはいけなくなりました。そこで、閻魔大王様たちの事務作業を少しでも減らすために、無念の死を遂げた武将については、その情状を酌量し、この場所で即座に別の世へ転生させることと相成りました・・・義栄殿は、転生をお望みでしょうか?」

「無論じゃ。今度こそ天下に覇を唱えてやるわい。」

「転生先は、次の2つの世界から選べます。一つは、戦国時代と同じく弱肉強食の乱世。もう一つは、争いのほとんどない平和な世界です。」

「もちろん乱世じゃ。」

「そちらのほうには、本能寺の変で無念の死を遂げた織田信長殿や、さらには武田信玄殿らも転生されるかもしれませんが。」

「・・・やっぱり、平和な世界のほうで・・・」

「では早速、新しい世へお送りします。」

男がそう言うと、わしの体が光に包まれ始めた。

すると男は何かを思い出したようである。焦った様子で、

「ギリギリで申し訳ありません。お望みのことがあれば、できる限り叶えさせていただきますが」と、帳面を取り出した。

そのような重要なことを、こんな間際に。わしの見立てどおり、要領の悪い男じゃ。

わしは機転を利かせ、この男でも書き記しやすいように、要望を四字熟語で伝えることにした。

「では、もう病気にはなりたくないので、無病息災で。」

「無病息災っと。」男は帳面に書き付けた。

「あと、年は取りたくないので、不老不死。」

「不老不死ですね。」

不老はともかく、不死などという要望も通るのかと、わしは内心驚いた。この男が担当で、むしろ、わしは運が良かったのかもしれない。わしは要望を続けた。

「それから、眉目秀麗にして・・・」

「ビモクシュウレイ?どういう字ですか?」

「まゆ・・・」と言った直後、わしの視界は完全に光で包まれ、そのまま意識を失った。

気が付くと、わしは、眉毛だけが凛々しい「とんだ幕府・将軍よしひで」という「ゆるキャラ」となって、令和の高槻市・富田に立っておった。確かに病気知らずで不老不死かもしれんが、思ってたのと、ちと違う・・・あの男に、してやられたということなのか?

まあ、転生した以上は、ぐちぐち言っても仕方あるまい。ただただ己の使命を全うするのみ。それが武家の棟梁たる将軍の生き方であろう。大いに富田を盛り上げてやろうではないか。

※「眉目秀麗」とは、イケメンという意味です。

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