わしをフォローするのじゃ!

勝手に大河ドラマ「三好長慶」第35章 本願寺証如との和睦

大河ドラマ

<<第34章>>

■第35章 本願寺証如との和睦

「京をこの手で制圧してやったぜ!この町で俺様にかなう奴はいない!俺様が京の支配者だ!」
 6月18日、細川国慶は得意絶頂だった。
「しかし、銭がない・・・おい、お前ら、公家(くげ)からも地下(じげ)からも礼銭をとってこい!」
 国慶は家臣に命じた。
 地下(じげ)とは、町人や百姓のことである。
「地下からも直接ですか?」
「公家の物は俺の物。地下の物も俺の物だ!」

「さあこちらです」
 6月20日、大坂本願寺へ単身で入った三好千熊丸は、番士に坊内を案内されていた。
(いざとなれば、証如を、竜巻旋風投げにしてやる)
 三好千熊丸は、緊張の面持ちで決意を固めていた。
「こちらの広間でしばらくお待ちください」
 襖が開けられ、千熊丸が中に入ると、上座に、関白の行空(九条稙通)が寝そべっている。こちらはまったく緊張感がない。
 千熊丸は下座に座った。
「行空様、この度はありがとうございます」
「長旅で疲れたので、横にならせてもらっているよ。千熊丸、君も僕の横に来い。一緒に面白いものを見よう」
 行空が手招きしたので、千熊丸もやむなく上座に座った。
 しばらくすると、証如がやってきた。
「本願寺証如でございます。義兄上(あにうえ)、お久しゅうございます。関白ご就任、誠におめでとうございます」
「やあ、久しぶりだな。元長の亡霊に怯えて、夜な夜な寝小便を垂れているのではと心配しているぞ」
「そのことでございます。元長様の亡霊が、私を殺すと宣言しながら、日々、私に近づいていると聞いております。恐ろしくて夜も眠れません。元長様の亡霊を鎮めることができるのは、千熊丸様だけだとか。千熊丸様、何とぞ霊をお鎮めください」
「では和睦を・・・」
「などと言うと思ったか!」
 証如は、千熊丸の言葉を遮り、それまでの殊勝な態度を一変させて、不気味な笑顔で叫んだ。
「おや?面白いことができるようになったではないか」
 寝そべっていた行空が座った。
「これからもっと面白い物をお見せしますよ。もうネタは割れているのです。今回も義兄上の『飯綱』を使っているのでしょう?義兄上のおられた場所に、元長の亡霊が現れていたのは調査済みです」
「『今回も』とは?」
「私が九条家の猶子になった時に、『霊がいる』と私を何度も脅されましたが、あの時も『飯綱』を使っておられたのですよね?」
「ああ、あの時は確かに僕の飯綱を使った。早く君に屋敷から出ていってほしかったからね・・・千熊丸、この証如は、九条家の猶子になるだけでは飽き足らず、公家の作法を学びたいと、1か月も僕の屋敷にいたのだ。僕の父は、僕を証如の教育係に任命した。面白い子ならともかく、真面目で頭が良いだけの、つまらない子で、僕は証如に早く屋敷から出ていってほしかったのだ。そこで、屋敷に霊が出ると言って、飯綱で夜中に物音を立てたら、随分と怖がってね。夜中に厠へ行けなくなって、寝小便を漏らす毎日さ。そのうち、独りでいるのも怖がるようになり、付き人と一緒に寝るようになる始末。それでこんなに門徒を自分の周りに集めるようになったのかねえ」
(証如の性格がねじ曲がったのは、行空様のせいでは?)
 千熊丸は思った。
「やはり、義兄上の飯綱だったのですね。もう調べはついているのです。お陰様でこれだけの門徒を集めることができましたよ」
 証如は苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「だが、今回は、僕の飯綱ではないぞ。そして、元長の亡霊が君を殺そうと近づいているのは本当だ」
 行空が言うと、床がミシミシと音を立てた。まるで、見えない何かが、証如に向かっているように。
「えっ・・・」
 証如は怯えた。
「ふ、ふふふ・・・」
 一瞬怯えた表情を見せた証如だったが、強がるように笑ってみせた。
「ど、どうせ義兄上の飯綱でしょう。飯綱は、飯綱使いにしか見えない。そのことも調べがついているのです。そこで、こちらも飯綱使いを用意しましたよ。おい、呼んで来い」
 番士が一人の男を連れてきた。
「ああ、しば漬け、漬けたい・・・漬物を漬けたくてたまらない。早く俺を亀岡に帰してください」
 飯綱使いの漬物屋・亀岡亀蔵であった(第23章を参照)。
「亀蔵、何が見える?」
 証如が問うた。
「え?ええっ?・・・血まみれの鎧武者が、証如様へゆっくりと近づいています!」
「どんな武者だ?」
「兜には、般若の面の前立てが・・・恐ろしい・・・恐ろしい・・・」
「亀蔵!証如様をお守りしろ!」
 番士の一人が叫んだ。
「いでよ、亀丸!」
 亀蔵が右拳を前に突き出して叫んだ。どうやら飯綱を召還したようである。
(あいつ、飯綱に名前を付けているのか)
 行空は心の中で笑った。
「亀丸、武者に嚙みついて動きを止めろ!・・・ええっ?」
 突然、石を砕いたような轟音が広間に響き渡った。
 すると、亀蔵は血を吐いた。
「そんな馬鹿な・・・巨亀の甲羅を人間が素手で打ち砕くなど・・・できるはずがない・・・」
 亀蔵は倒れた。
 余談だが、亀の甲羅は肋骨(あばら骨)が変化してできたものである。飯綱が、ジョジョの奇妙な冒険のスタンド的なものだとすれば、飯綱の甲羅が砕かれれば、飯綱使いの肋骨が粉砕骨折することになるだろう。
 床のミシミシ音は、さらに証如に近づき、証如の首に、指の形が浮かんだ。
「く、苦しい・・・」
「証如様をお助けしろ!」
 番士たちが証如に近づくが、全員弾き飛ばされた。
「た、助けて・・・義兄上様、助けて・・・」
「助けを求める相手が違うだろ?千熊丸に詫びろ」
「せ、千熊丸様、私が悪うございました。何とぞ、お助けください」
「では、和睦を受け入れよ。畿内すべてで戦闘を中止し、将軍は足利義維様、細川京兆家当主は六郎様とせよ」
「畿内すべて?私の管理が及ばない者らもいるのですが・・・」
「戦闘を継続する者は破門すると言って、命じればいいだろう、オラ!オラ、破門を使え!オラ!」
「分かりました・・・」
 オラつく千熊丸に、証如は折れた。
「僕もわざわざここまで足を運んだんだ。僕からも要求させてもらおう。僕が関白に就任したのに、君は挨拶にも来なかったじゃあないか。これから、盆と暮れには、何か面白い進物を贈ってくれ。半端な物は許さんぞ」
「わ、分かりました・・・」
「父上、もう許してやってください」
 千熊丸がそう言うと、やっと証如は解放された。
「世の中には目に見えぬものがあるのだ。君は、人の心を宗教を利用して操ることは得意になったようだが、それでも、君を脅かす存在があることが分かっただろう。君は、三好家の血統に敗れたのだ。今後も、三好家に逆らえば、元長の亡霊が君をすぐに死へと追いやることを、肝に銘じておきたまえ」
 行空は立ち上がって言った。 

 千熊丸と行空は、慶春院や三好長逸のいる大坂本願寺の宿舎へ入った。
「母上にも、この度はご苦労をおかけしました」
「私は、大いに暴れられて楽しかったですよ。元長様の仇も少しは討てましたし」
 慶春院は笑顔で答えた。
「長逸兄、これからどうしようか?」
「芥川城に向かってはどうか。摂津の情勢は不安定だが、芥川孫十郎からの書状によると、芥川城は比較的安全のようだ。孫十郎も歓待してくれると言っている」
「ではそのようにお願いします」
 長逸の提案に、千熊丸は同意した。
「それにしても、亀蔵はよくやってくれましたね。最高の芝居でしたよ」
「芝居ではなかったと思うが・・・」
「本当に父上がいてくれたらなあ」
「ずっとそばにいたが・・・今もお前のそばにいるぞ」
「また冗談を。私にまで寝小便をさせようとしているんですか?」
 千熊丸と行空は嚙み合わない会話をした。
「慶春院殿、元長殿の位牌はありますか?」
 行空が尋ねた。
「はい、こちらに」
 慶春院が位牌を胸から取り出した。
「千熊丸、今日までのことを元長殿に報告し、感謝したらどうだ?」
 行空は位牌を上座に置き、何かを手招きすると、自身は下座に座った。
「ちょっと恥ずかしいですが・・・父上、今回は、行空様や母上、長逸兄のお陰で、本願寺と和睦を結ぶ運びとなりました。父上が鍛えてくださったお陰で、私も、弟たちも、強く育っています。これからも、父上がいなくても、一族で力を合わせて、必ず三好を守ってみせます。天から見守っていてください」
 千熊丸がそう言うと、位牌がパタリと倒れた。
(これは成仏・・・なのか?しかし、僕には飯綱は見えても、霊の類は見えない。なぜ元長がいたのだ?・・・いやあ、しかし、面白い物が見れたものだ)
 行空は満足気だった。

<<続く>>

コメント

タイトルとURLをコピーしました