わしをフォローするのじゃ!

勝手に大河ドラマ「三好長慶」第28章 阿波の武神・三好元長の最期

大河ドラマ

<<第27章>>

■第28章 阿波の武神・三好元長の最期

「おい、為利、笠はどうした?」
 堺の港で、三好元長は、加地為利(一つ目)に尋ねた。
「六郎兵衛の奴があまりも欲しそうにしてたから、渋々やったんだ」
「そうか。六郎兵衛は、さぞ喜んだだろうな」
「よし、一丁やったるか」
 三好一秀(瓜爺)は肩を回しながら元長に近づいてきた。
 他も者らも元長の下に集まってきた。
「よし、行くぞ!」
 元長らは翁橋へと向かった。

 阿波にたどり着いた千熊丸たちは、勝瑞館に身を寄せ、報せを待っていた。
「堺から先生がお着きになられましたよ。広間で皆にお話をしてくださるそうです」
 赤沢次郎が優しい声で、千熊丸たちに報せてくれた。
 千熊丸たちは広間に集まった。
「今から、元長たちの最期を語ろう」
 先生は語り始めた。

 6月20日早朝。堺の環濠の東にかかる翁橋の前には、元長の指示で組まれた即席の櫓があり、その周りは陣幕で覆われている。さらにその周囲には矢盾が設置されていた。かがり火も焚かれている。
「弓を持っている奴を優先して射殺せ」
 元長は櫓の上の者らに指示した。
「南無阿弥陀仏~、南無阿弥陀仏~」
 一向一揆の者らが三々五々、群がってきた。
「俺が阿波の武神・三好元長だー!」
 元長が叫ぶと、功を争って、門徒らが駆け寄ってきた。
「仏敵めー!」
 襲い掛かる門徒らを、元長らは難なく倒した。
「名乗りを上げると、気持ちがいいなあ!力もみなぎってくる!」
「『阿波の武神』か。カッコイイ二つ名じゃねえか!お前にピッタリだ」
「千熊丸が、俺に付けてくれたんだ」

 元長らがなぎ倒した死体は、「風呂敷の彦六」ら足軽が少し離れた場所に運んでいたのだが、だんだんとそれらが積み重なっていった。
 元長の鎧や、般若の面の前立てを取り付けた兜は、返り血で赤く染まっている。
「俺が阿波の武神・三好元長だー!」
 夕暮れ。元長が名乗りを上げたが、死体の山を見た門徒らは、ひるんで襲ってこなくなった。
「『一つ目の為利』とは俺のことだー!かかってこい!」
「俺は『阿波の帝王』撫養隠岐守だー!お前らの尻子玉を引っこ抜いてやる!」
「ダメじゃダメじゃ。お主らは怖すぎる。わしが挑発の手本を見せてやる」
 瓜爺が前に出た。
「わしは日の本一の瓜使い、三好一秀じゃ!お主らは、瓜にも勝てぬのか?わしの瓜を喰らえ、うりゃ~~~!」
 瓜爺は門徒らに瓜を投げた。
「食べ物を粗末にするな~。瓜を粗末にする者は、瓜に泣くぞ~」
「そ、そのとおりじゃ・・・」
 門徒に言い返された瓜爺は、膝から崩れ落ち、泣いた。
「俺にやらせてください」
 風呂敷の彦六が名乗り出た。
「俺は、人呼んで『風呂敷の彦六』!田植えの名人だ!お前の禿げ頭にも、苗を植えてやろうか!」
「何を~!」
 挑発に乗る門徒が出てきた。だがその挑発も、禿げた者がいなくなり、効かなくなった。
「俺は海賊大名になる男の兄、加地又五郎だ!俺の火矢で燃えやがれ!」
 又五郎は火矢を放った。
「元長様、矢が尽きかけています!」
 又五郎は報告した。
 門徒らの矢が激しくなってきた。
「皆、矢盾に隠れろ!」
 元長は指示した。
「ここは拙者にお任せを」
 男は黙って高倉健を地で行く剣豪・塩田胤光が矢盾の前に立った。
「それがしは、三好元長様が家臣・塩田胤光!北条義政を祖とする北条氏極楽寺流の末裔である。信濃国塩田荘から流れ流れて・・・」
 胤光は二刀流で矢を払いながら、長い長い口上を滔々と垂れ始めた。
「へえ、北条の出だったのか。知ってたか?」
「いや、知らなかった」
「普段は無口だからなあ。しかし、長い・・・」
「・・・そして今、長き修行の果てに、この地で、お主らと対峙しているのだ!かかってこい!」
「やっと終わったか」
 胤光は無傷で帰ってきた。
「次はお前だ。修行の成果を見せよ」
 胤光は次男の胤正に言った。
「えっ?無理無理無理無理!」
「いいから行け!」
 胤正は矢盾の外に出された。
「以下同文!」
 胤正はすぐに戻ってきた。
 三男・胤氏も外に出たが「以下同文!」と言って、すぐに戻ってきた。
「体力の限界も近い。そろそろ頃合いじゃな」
 瓜爺が言った。
「あ!久秀が戻ってきました!」
 又五郎が叫んだ。
 松永久秀が単騎で門徒らの側面から突っ込み射手を攻撃したが、馬から引きずり降ろされ、ボコボコにされている。
「そろそろ潮時というときに・・・間の悪い男じゃ」
「久秀を助けろ!」
 元長が叫ぶと、全員が矢盾から飛び出した。
 元長たちは久秀を救出すると、久秀を引きずって、矢盾の後ろに戻った。
「うっ!」
 久秀をかばった元長は、左腕に矢を受けた。
「申し訳ありません、元長様!私のせいで・・・」
「こんな矢傷くらい、塩をすり込めば治る・・・しかし、どうして戻ってきたんだ!」
「横領の件、死んでお詫びします!」
「そのことはもういいんだ。本当はお前を許していたんだ」
 元長は言った。
「わしが、ここにいる『風呂敷の彦六』らに調べさせたのじゃ」
 瓜爺が語り出した。

 彦六と優作・鉄矢・辰夫は、久秀が薬を発注した豪商の店に行き、納品先を調べた。すると、高価な薬が、摂津・東五百住の久秀の実家へ送られていることが分かった。
 久秀の実家の周辺で聞き込んだところ、久秀には公家出身の母がいるが、病気だという。
 久秀の実家を訪ねると、病身の母が対応し、孝行息子の久秀が送ってくれる薬のお陰で快方に向かっていると、嬉しそうに言ったのであった。

「鉄矢が泣いて言うんだよ。久秀を許してやってほしいと。鉄矢にも優しいお袋さんがいたらしい」
 彦六が言った。
「俺も千熊丸も、そういうことならと、見て見ぬふりをすることにした。お前の交渉力のお陰で、物資の調達も安くできていたからな」
「それで、私を逃すために、わざと嘘を・・・」
 元長の優しさに、久秀は泣いた。
「久秀、頭から血が出ているぞ」
 彦六は、風呂敷を久秀の頭に巻いてやった。
「大事な風呂敷じゃなかったのか?」
「いいんだ。風呂敷はあの世へはもっていけない」
「こうすると、お前は本当にねずみ男のようだな」
 元長は笑った。
「久秀、お前は、母の許へ帰れ。きっと、お前の笑顔を待ちわびているぞ」
「私だけ・・・そんな・・・」
「もし縁があれば、千熊丸たちを支えてやってくれ」
「早う行かんと、一揆の奴らがますます増えるぞ!」
 瓜爺が急かした。
「南のほうから逃げろ!行け!」
 元長は久秀を送り出した。
 久秀は、死体の山に隠れながら走り、脱出した。そして、盗んだ馬で走り出した。暗い闇の中へ。

「俺たちも顕本寺へ退くぞ!走れ!櫓に火をかけろ」
 元長らは翁橋を渡り、又五郎は櫓の下の油の樽に火を点けた。そして門を閉ざした。
 櫓が鎮火すると、一揆の者らは翁橋を渡り、門を壊し始めた。
 門が開くと、甲斐町通の中ほどに、元長が立っている。
「お前たちの仏敵、三好元長はここにいるぞ!」
 元長が叫ぶと、一揆の者らは一気に押し寄せてきた。
 元長は開口神社に駆け込み、あらかじめ用意していた梯子を伝って社殿の上へ駆け昇ると、梯子を引き上げた。
 甲斐町通の両側は、細川六郎と細川彦九郎との籠城合戦で防壁が築かれていたが、元長は甲斐町通の途中も防壁で塞いで、開口神社を袋小路にしていたのである。
「元長、どこだ!」
「ここにいるぞ!」
「どこだ!」
「紅に染まった俺が見えないのか?」
「どこだ!」
「こんなにそばにいるのになあ」
 社殿の屋根の上で身を潜めながら、元長は笑った。しばらくの間、そんなコールアンドレスポンスが続けられた。門徒を引き付けるためである。
 一揆の者らは翁橋からどんどん入ってきたが、袋小路になっているため、通勤ラッシュの都会の満員電車のように押し込められていった。
「こうなれば火を点けてやろうか」
「そんなことをしたら俺たちまで焼け死ぬ」
「潰される~」
「漏れる~」
「助けてくれ~」
 一揆の者らは身動きが取れない状態になった。
 薄暗い空の下で、元長は社殿の屋根の上に立った。
「お前たちに尋ねたい。なぜ俺は仏敵なんだ?」
 元長は20万もの門徒らに向かって尋ねた。
「証如様が決めたからだ」
「証如は何故、俺を仏敵と決めたのだ?」
「知らん」
「俺は本当に仏の敵なのか?」
「どうでもいい」
「お前たちは本当のことを知らないのか?お前たちにとって、真実とは何なんだ?」
「わしらにとって、証如様の言葉がすべてだ」
「俺を殺して、何になるのだ?仏に救われるのか?」
「知らん。何をしても阿弥陀仏が救ってくれるのだ」
「では何故殺すのだ?」
「・・・」
「どのような神や仏でも、それが真実のものならば、愛こそがすべてではないのか?」
「・・・」
「俺は、愛こそすべてだと信じているぞ」
「・・・」
「お前たちが、俺の死を望むなら、そのすべてを受け止めよう!だからもう二度とこのようなことはするな!約束してくれ!」
 元長は、千熊丸らへ一向一揆が向かわないようにしたかったのだ。
「約束するから、早くしてくれ!」
「約束するか?」
「約束する!」
「約束したぞ・・・しばし待て」
 元長は、社殿の屋根の上で助走し、跳躍した。そして、一揆の者らの頭を踏みつけながら走り、防壁を飛び越えた。

 顕本寺の本堂では、元長の家臣らが輪になって座っている。
「待たせたな。瓜爺の作戦どおり、一揆の奴らは苦しんでいたぞ」
「最後に、してやったり、じゃな」
 元長は輪の中央に座った。
「いやあ、わしらは強かったな」
「戦では負け知らずだった」
「あの朝倉宗滴にも勝ちましたからね」
「京の都も支配しました」
「これからは子ども達がやってくれるはずだ」
「・・・よし、そろそろ逝くか」
 家臣らは腹を切った。
「皆、今までありがとう・・・先生!」
 元長が呼ぶと、先生が現れた。
「先生、これまで大変お世話になりました。本気の先生と闘いたかった・・・」
「お前はそれ以上のことをやってきたぞ、元長。立派であった」
「千熊丸、もうしばらくお前のそばに居てやりたかったが・・・先生、では、さらばです」
 元長は腹を十文字に割いて、内臓をつかみ出し、天井に投げつけた。
「見事だ、元長・・・」
 先生は元長の最期を見届けた。

「義維様、こちらです」
 顕本寺の住職が、堺公方・足利義維と奉行人・斎藤基速を本堂へ案内した。
「元長・・・」
「元長様・・・」
 二人は絶句した。
「わしもここで腹を切る!」
 義維は脇差を腹に当てた。
 ところが、義維の手が震え出し、義維は脇差を落とした。
「どうしたの?」
 基速が義維を抱きかかえた。
「これは中風の発作では?以前見たことがあります」
 住職が言った。中風とは、脳卒中のことである。
「酒の飲み過ぎなのよ!」
 基速が叱った。
「義維様、勝手に引接寺を抜け出されては困ります」
 三好政長と茨木長隆(茨木童子)が兵を引き連れてやってきた。
「義維様、切腹もロクにできないんですか?」
 政長が笑った。
「中風の発作が出たのよ!」
 基速が弁護した。
「わはははは、あの元長が死んでいる!化け物みたいに強かった家臣らも、皆死んでいる!」
 長隆は大喜びした。
「ここは危ない。引接寺に引き返しますよ」
 政長らは、義維と基速を強引に連れ去っていった。
「元長様~!」
 基速は叫んだ。

 その後、一揆の者らが顕本寺に雪崩れ込んだが、元長らの壮絶な切腹の姿を見て、大人しく引き返していった。

<<続く>>

コメント

タイトルとURLをコピーしました