わしをフォローするのじゃ!

勝手に大河ドラマ「三好長慶」第27章 三好元長との永遠の別れ

大河ドラマ

<<第26章>>

■第27章 三好元長との永遠の別れ

「畠山義堯様が自害されました!」
 河内・飯盛城で、伝令が、木沢長政(天狗)に伝えた。
「命拾いしたぜ。一向一揆さまさまだな。ワハハハハ」
 長政は高笑いした。長政の赤い顔は、スリルと興奮で高揚し、さらに赤くなっている。
「細川六郎様と強いつながりを築いていて大正解だったな」
「兄上が死んだ・・・何故だ・・・」
 畠山義堯(よしたか)の弟・畠山在氏(ありうじ)は狼狽している。
「お坊っちゃまだからさ。わしなら、昨年の8月にわしを討ち取っていた。そんなお坊っちゃまの甘さが命取りになったのだ・・・在氏様、いよいよあなたが畠山家の当主ですぞ。まあ、わしの言うことには従ってもらいますがな。ワハハハハ」

「キエー!」
 堺・顕本寺の三好元長の屋敷の秘密の道場では、元長の妻・春が、高い天井スレスレまで飛び上がり、三角蹴りを元長に浴びせた。
「そんな技までできるようになったのか!」
「元長様のお屋敷のお陰で、毎日のびのびと鍛錬できています」
 春は元長にパンチを浴びせながらニコニコと語った。
 春は人前では下半身不随を演じざるをえないので、この道場の存在はとてもありがたいのだ。
「父上!」
「なんだ?」
 元長の嫡男・千熊丸(後の三好長慶)が襖を開けた。なお、千熊丸は母の秘密を知っている。
「本願寺証如の軍勢が、堺へ押し寄せていると、九条稙通様がおっしゃっています」
「一向一揆か?調べさせよう」
 二人は広間へ向かった。
「元長兄!」
 三好加介が広間に飛び込んできた。
「一向一揆勢が少なくとも3万、堺へ攻め寄せてきます!最終的には21万にもなるそうです!今頃、俺の爺ちゃんは・・・」
 加介は事情を説明した。
「千熊丸、皆を集めろ」

「元長が仏敵か・・・訳が分からん。まったく不合理じゃ」
 三好一秀(瓜爺)がうめいた。
「寺社へ多額の寄進をしているのだから、むしろ逆に、仏の味方じゃないですか!本願寺派の寺にも便宜を図りましたよ」
 塩田一忠は言った。
「皆で阿波へ逃げることはできないのですか?」
 千熊丸は尋ねた。
「一揆の者らの狙いは、仏敵である俺の命だ。俺が阿波へ逃れたとなれば、堺の街を滅茶苦茶にした後、海を渡って俺を追いかけてくるだろう。そうなれば、阿波も蹂躙される。どこにも逃げ場所はない」
 元長は答えた。
「政長の野郎!」
 三好康長(ヤス)は床を拳で殴った。
「ご報告です。三好家長様が、3千の兵と共に、討ち死にされたとのことです」
 伝令が報告した。
「爺ちゃん・・・」
 加介はうつむいた。
「柚よ、ようやった」
 瓜爺は天を仰いだ。
「柚爺(三好家長)が指示したとおり、特に若い者は、船で阿波へ逃がそう。俺はここで死ぬまで戦って、時間を稼ぐ。そのための何かよい作戦はないか?」
 元長が尋ねた。
「こういうのは、どうじゃ」
 瓜爺が作戦案を提示した。
「それで行こう!」
 元長は立ち上がった。
「掃部助、堺の会合衆を集めてくれ。為利、堺中の船を押さえろ。一忠、必要な人員と資材を集めて作戦の準備をしろ。胤光、翁橋に可能な限り矢を集めろ。ヤス、兵に阿波へ帰る準備を急いでさせろ。準備できた者から順次船で阿波へ送り出せ。千熊丸、久秀と共に、貴重な物や帳簿類を運べるようにまとめておけ。皆急げ」
「おう!」 

「つまり、我々は、元長様は環濠の外にいると、翁橋の前にいると、一向宗の者らに伝えればいいのですね?」
「そんな元長様を売るような真似は・・・」
 顕本寺の広間で、豪商らは言った。
「それでいいのだ。俺がどこにいるのか知らせれば、堺の街がむやみに攻撃されることはないはずだ。俺は、かがり火をたいて、翁橋の前にいる」
「分かりました」
「俺が死ねば、三好の当主は嫡男の千熊丸だ。千熊丸のことをよろしく頼む」

「よし、だいたいの準備はできたな」
 元長は、家臣らを顕本寺に集めて言った。
「逃げたい者は逃げよ。何もとがめん」
「私たち親子は馬廻りとして最期まで元長様と戦います」
 塩田胤光は言った。
「自分の家を絶やさないようにしてくれよ。これは未来へつなぐための戦いなのだからな」
「先ほど一族で相談しましたが、塩田は一忠が残ります。郡代として京にいる胤貞も無事に阿波へ戻ってくれるはずです」
「私も元長様と戦います!」
 松永久秀が言った。
「久秀、ちょっとこっちへ来い」
 元長は久秀を広間の外へ連れ出して、小声でささやいた。
「お前はまだ若い。摂津の実家へ逃げろ。逃げなければ、横領の件をばらして、ここで首を刎ねるぞ」
「ひええ~!」
 久秀は逃げ出した。
「久秀は逃げるそうだ」
 広間に戻った元長は言った。
「海船政所で兵に準備をさせていたらよう、元兄と命を共にすると言ってきかない奴らが何十人もいたぜ。俺も戦うぜ」
 ヤス(三好康長)が言った。
「お前はダメだ。お前が死んだら、誰が俺や瓜爺の代わりに千熊丸たちを守るんだ。お前は千熊丸たちのために阿波へ戻ってくれ」
「・・・分かった」
「では、俺たちも、家族を船に乗せよう。皆、それぞれの屋敷で、準備にかかれ」
「おう!」
 皆が出ていき、元長は一人になった。
「・・・千熊丸、お前のそばに、もう少し居てやりたかった・・・お前と戦場を駆け回りたかった・・・」
 元長は、泣きそうな顔で、本音をこぼした。
「・・・よし、俺も行くか!」
 元長は勢いよく立ち上がった。

 港では、家臣らが家族と別れの言葉を交わしていた。

「すまんな、隠岐守・・・」
「なあに、荒事は私の担当です、兄上。それに私には子がいません」
 撫養掃部助(河童)に隠岐守(河童)は答えた。
「佐五郎、執事の心得第一条を述べてみよ」
「主君のためなら、たとえ火の中水の中!」
「いい子だ。兄上、阿古女と友通殿をお願いします」

「一忠、千熊丸様たちを頼んだぞ。しかし、お前の三刀流は、使い物にならんな」
「だから、研究中だって言ってるだろ」
「振りが弱い」
「精度も低い」
「こんな時でもダメ出しかよ・・・」

「父ちゃん、元長様のために、がんばってくれ!」
「俺も残る。元長様の作戦のためには、俺の弓の腕が必要だ」
 加地又五郎は言った。
「残るなら、嫡男の兄ちゃんじゃなくて、俺のほうだ」
「いや、六郎兵衛は淡路島に帰れ。お前のほうが俺より仲間を集めるのに向いている」
「嫌だよ、兄ちゃん」
「お前は海賊大名になるんじゃないのか!『人つなぎの秘宝』は探さないのか!」
「兄ちゃん・・・」
 加地六郎兵衛はうつむいた。
「六郎兵衛、この笠をやろう」
 加地為利(一つ目)が笠を脱いで差し出した。
「要らない・・・」
「えっ?あれだけ欲しがってたじゃねえか」
「いや・・ダサいから・・・」
 六郎兵衛は、堺にいる間に、少し都会に染まってしまったようだ。
「いいからこれをかぶって、淡路島に帰れ!」
 為利は、生涯で一番恐ろしい顔をして、強引に六郎兵衛に笠をかぶせ、船に投げ入れた。
 余談だが、「ダサい」の語源は、田舎(いなか)である。「田舎(たしゃ)」→「ださ」→「ダサい」と変化した(諸説あり)。

「康長、千熊丸たちを頼んだぞ」
「任せておけ・・・ジジイ、いろいろと迷惑かけた・・・」
「泣くな。その分、これから取り戻せ。お前はまだ若い・・・岩倉城の瓜畑も頼んだぞ」
「・・・」
「瓜畑も頼んだぞ」
「・・・」
「泣いてるふりせんと、答えろ!康長!」

「瓜の爺さん、俺たちはどうしたらいいかな?」
 優作は瓜爺に尋ねた。
「おい、お前たち!わしの軍団に入って、一緒に阿波へ来い!康長兄のところでは、やりにくいだろう」
 三好長逸(ながやす)が船上から呼びかけた。
「いいのか爺さん」
「おう、いいぞ。長逸について行け」
「ところで、あんたは、何でもかんでも『松竹梅』で評価しているが、俺たちはどうなんだ?」
 優作は長逸に尋ねた。
「お前は、松だ!優作!お前は体力もあるし、武芸も見込みがある。観察力も鋭いしな」
「分かってるじゃねえか。ついて行ってやるよ」
 優作は船に乗り込んだ。
「俺は?」
 鉄矢が尋ねた。
「お前は、竹だ!鉄矢!お前は学がある」
「あんたが大将!俺もついて行くぜ!」
 鉄矢も船に乗り込んだ。
「俺は?」
 辰夫も尋ねた。
「お前は・・・お前もついてこい!」
(ということは、俺は梅・・・嫌だなあ・・・まあ俺は、瓜の漬物さえ漬けられたらいいや)
 辰夫も船に乗り込んだ。

 元長も春を背負い、子らと共に港へ走り、船に乗り込んだ。
「阿波の神童!」
「はい!」
 元長の呼びかけに、千熊丸は誇りをもって答えた。
「今からお前が三好の当主だ!阿波の神童なのだから、大丈夫だ!」
「私が『阿波の神童』なら、父上は『阿波の武神』です」
「『阿波の武神』か。フフフフ。『阿波の武神』らしい戦いを見せてやろうではないか!・・・春、子らを頼んだぞ」
「はい・・・」
 春はさめざめと泣いている。
「千熊丸、千満丸、千々世、孫六郎」
 元長は兄弟を呼び寄せた。
「この世の中では、兄弟でも平気で殺し合いをしている。でも、お前たち兄弟は、力を合わせるんだ。お前たちが力を合わせれば、無敵だ!」
 元長は兄弟を抱きしめた。
「よし、船を出せ」
 元長は船を降り、少しの間見送って、死地へと向かった。

<<続く>>

コメント

タイトルとURLをコピーしました