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勝手に大河ドラマ「三好長慶」第36章 囚われの千熊丸

大河ドラマ

<<第35章>>

■第36章 囚われの千熊丸

 6月20日、三好千熊丸と行空(九条稙通)が、大坂本願寺の宿舎で、慶春院や三好長逸と会っている頃、本願寺証如の坊官・下間頼秀と摂津国衆・三宅国村(百々爺)は、細川六郎の陣へ向かっていた。和睦交渉のためである。
「下間頼秀殿がお越しになられました」
「通せ」
 頼秀と国村が、六郎と三好政長がいる陣幕に入った。
「千熊丸殿のご指示でやってまいりました。千熊丸殿のご仲介により、和睦させていただきます」
(千熊丸、やりおったか!恐ろしい奴じゃ・・・)
 六郎は思った。
「ところで千熊丸は?」
「宿所でお母上とお会いになっておられます」
「そういえば、千熊丸の奴、母上が、元長の弔いのために堺へ行き、その後は、病気平癒祈願のため京の晴明神社へ行くと言っていたな」
「お母上も、ちょうどこの付近を通りかかったとのことです」
「このような時期に・・・それほどお体の状態が悪化されているのでしょうな」
「足も不自由やそうや。元長兄が亡くなって、ますます具合が悪くなったのかもしれんな」
「さて、和睦のほうでございますが、千熊丸殿が申されたことはすべて受け入れさせていただきます。それが、証如様の御意向でございます」
 頼秀が言った。
「千熊丸は何と申しておったのか」
「畿内すべてで戦闘を中止し、将軍は足利義維様、細川京兆家当主は六郎様とすることでございます。ただ、私共の管理が及ばない者らもいることはご容赦願いたい。無論、そのような者らは破門いたしますが、それでも言うことを聞かぬ者もおるかもしれません」
「細川晴国については、何か言っていたか」
「それについては何も」
「では、晴国は、細川野州家の当主とせよ。京兆家の当主はわしだ。京兆家を名乗らせるな」
「六郎様が京兆家の当主であられる以上、それでご納得いただくしかありませんな。私が説得いたします」
 国村が言った。
「それから、将軍は足利義晴様としてくれ」
「それでは千熊丸殿との約束が・・・」
「構わん。義維様はご病気だ。政務には耐えられん」
 六郎は千熊丸の意向を無視した。
「私共としても、そのほうがやりやすい・・・私共と義晴様との関係の修復に、六郎様のお力をお貸し願えないでしょうか」
「ああ任せろ」
 六郎が答えた。
「ところで、千熊丸は、証如様とどのような話をしたのですか?」
 政長が尋ねた。
「千熊丸殿は・・・あの人たちは、いったい何なのですか・・・もう関わりたくない・・・」
 頼秀は震え出した。
「とにかく、和睦の条件はそれでよいですね。早く千熊丸殿にはお帰り願いたい。我々は、証如様は、千熊丸殿には逆らいません。何とぞお願いいたします!」
「わ、分かりました。千熊丸には至急こちらへ戻るように伝えてください」
「では失礼」
 頼秀と国村は去っていった。
「千熊丸め、どのような手を使ったのか・・・一人で暴れ回ったのか・・・」
「一人で暴れたとしても、孤立無援では、さすがの千熊丸も、いずれは殺されたはずです。証如の首根っこを押さえられるような、何かをもっているに違いありません。千熊丸に阿波へ帰られると、また本願寺が敵になる可能性があります。千熊丸を畿内にとどめておかねば・・・」
 政長は言った。

「よーし、いよいよ、六郎を討ち取ってやるぜぇ!京の国慶と、摂津の一向門徒とで、挟み撃ちにしてやるぜぇ!豪快だろぉ?」
 細川晴国は、丹波・八上城で上機嫌だった。
「殿、三宅国村が戻ってきました」
「通せ」
 八上城の城主・波多野秀忠が伝令に行った。
「国村、いよいよ出陣だな?」
「それが・・・中止でございます」
「えっ?なんで?」
「証如様のご命令です。三好千熊丸の仲介で、本願寺は細川六郎様と和睦しました。証如様はもう戦いません」
「あれだけやる気だったじゃねえか?なんだ、三好千熊丸って?」
「千熊丸は、相当ヤバい奴みたいで、証如様は震え上がって、布団にもぐり込んでいます」
 国村は答えた。
(元長殿も優秀だったが、千熊丸殿も優秀なようだ。こんな難しい和睦を仲介するとは、尋常な力量ではない。見込みがあるな)
 秀忠は思った。
「私も門徒ですので、立場上動けなくなってしまいました。申し訳ございません」
 国村は謝罪した。
「いやいや、お前はよくやってくれたぜぇ。仕方がない。皆はここで待っていてくれ。俺一人だけで証如と話し合ってくるぜぇ。豪快だろぉ?」
 晴国は駆け出した。
「おい、止めろー!」
 秀忠は家臣に叫んだ。

「おいおい・・・だけど、俺様は止まらねえぜ!」
 6月23日、京で、晴国方の細川国慶は、和睦を報せる書状を破り捨てた。
「野郎ども!俺たちの戦いは始まったばかりだ!今夜も法華宗の奴らを血祭りに上げてやる!出陣だ!」
 国慶の軍勢は、法華宗徒が籠る妙顕寺に夜襲をかけた。

 六郎方は、本願寺とは和睦したが、京や摂津では、晴国勢や、証如に従わない一向一揆との戦闘が続き、千熊丸も阿波勢を率いて戦わざるをえなかった。

「おい、まだ戦は続くのか?」
 8月、木沢長政(天狗)が、政長と茨木長隆(茨木童子)のいる部屋に入ってきた。
「次第にこっちが優勢になってきてる。証如との和睦が効いたな」
 政長が答えた。
「しかし、もし証如が再び敵に回ったらマズい。そのためには、千熊丸を畿内にとどめておかなければ」
 政長は悩み続けていた。
「そういえば、千熊丸の母が、三好長逸と共に、芥川城に入りました。母を人質に取るとか?」
 長隆(茨木童子)が提案した。
「こういうのはどうじゃ?ちょうど良い駒もおる」
 長政(天狗)が二人に耳打ちした。

「戦も次第に落ち着いてきた。そこで論功行賞をしたいと思う」
 10月、六郎は、芥川城に諸将を集めて言った。
(これでやっと阿波へ帰れるな)
 千熊丸は思った。
「最大の功労者は、千熊丸、お主だ。お主には、長洲荘の代官職をやる」
「ちょっと待ってください。私は阿波へ帰りたいのですが・・・」
「代理の者を立てればいいだろう・・・木沢長政と共に戦った、三好連盛というお主の一族にも大いに功があった。そこで、長洲荘の代官職は千熊丸と連盛の二人にやってもらう。それならお主が不在でも問題なかろう」
「連盛?」
「俺や」
 連盛が手を挙げた。
「本当に一族ですか?長逸兄、聞いたことがありますか?」
「ないな」
「一族なら、それを証明する物はありますか?」
「・・・」
「ないんですか?」
「・・・三好家家訓!『泥にまみれて民の声を聞け。そして鍛錬を怠るな!』」
 連盛が叫んだ。
「本物だ。それを知っているのは三好家の者だけだ」
 千熊丸は笑った。
「ちょっとええか」
 連盛は、千熊丸と長逸に近づいた。
「俺は之長の隠し子なんや」
 連盛は二人に耳打ちした。
「ところで、長逸殿、お前は誰の子や?」
「長光ですが」
「長光!」
 連盛は驚いた顔をした。
「それと千熊丸、お主は牢屋行きだ」
「えっ?」
 六郎の言葉に、千熊丸は驚いた。
「お前は、六郎様を殴って、鼻の骨を折ったやないか!その罪や!」
 政長が叫んだ。
「六郎様は、私の主君ではない。私は主君に手を上げたのではない。父上の仇を殴っただけです。ですので、私に罪はありません」
「なら、お前の母上に、代わりに罪を償ってもらおか。お前があくまでも六郎様の家臣やないと言うのなら、この共闘関係が終われば、敵や。母上を人質に取らせてもらうが、それでええか?」
「何という汚いやり方だ!」
 千熊丸と長逸は激怒した。
「おい、政長、お前は誰の子や!」
 連盛が尋ねた。
「今、そんなことは関係あらへん」
「俺は親戚づきあいが乏しくてな。まあ、この機会に教えてくれや」
「長尚や」
「長尚か。あの裏切り者か。親が親なら子も子やな」
「なんやと!」
「お前、足の悪い女を人質にするなんて、最悪やで。同じ一族ならそんなことはやめとけ」 
「おい、連盛!お主は代官職が要らんのか?」
 木沢長政(天狗)が連盛を睨んだ。連盛は口を押えた。
「私は牢へ入ります。その代わり、少し母上と話をさせてください」
 熟考していた千熊丸は、答えを出した。

「母上、私は畿内にとどまろうと思います。そして畿内で足場を固め、いずれは父上のように、京を押さえ、義維様を将軍にお迎えしたいと思います」
 千熊丸は言ったが、嘘だった。畿内にとどまる計画もなければ、準備もしていないのだ。牢に入ることを隠し、母を安心させて、阿波へ帰すための方便だった。
「千熊丸、健康に気を付けるのですよ。そして、元長様のように、私を迎えにきてください」
 慶春院は言った。
「母上もお元気で。必ずお迎えにあがります」
 千熊丸は、そう言いながらも、これが母との最後の別れかもしれないと考えていた。

「入れ」
 千熊丸は、芥川城の座敷牢に入れられた。

<<続く>>

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