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勝手に大河ドラマ「三好長慶」第25章 松永久秀の茶器と動かぬ証拠

大河ドラマ

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■第25章 松永久秀の茶器と動かぬ証拠

 少し時を遡る。
 享禄5年(1532年)正月、堺・顕本寺の三好元長の屋敷の一室では、元長の子らが書初めをしていた。
 余談だが、書初めの起源は、平安時代平安時代の「吉書奏」という宮中儀式である。
 次男・千満丸は納得がいかないのか、何度も書き直していた。まったく書初めに相応しくないのだが、三国志の影響で「諸葛亮孔明」とひたすら半紙いっぱいに大書していたのである。
「これでは諸葛亮孔明の偉大さが表せていない」
 千満丸は、物事にのめり込むと異常な集中力を発揮するが、周りが見えなくなる質なのだ。
 ついには、書道パフォーマンスのようなことをやり出し、盛大に畳を墨で汚した。
「おいおい・・・」
 千熊丸は呆れて、止めようとした。
 そこへタイミング悪く、母の春がやってきた。
「元長様のお屋敷を汚したのは誰ですかっ!」
 春は金切り声を上げた。
 千熊丸の弟妹は震え上がった。
「お前か、千熊丸っ!」
「違います」
 千熊丸は反射的に否定した。
「お前か、夏っ!」
 すると、三男の千々世が前に躍り出て、両手を広げた。
「僕がやりました!」
「お前か!」
 春に平手打ちをされた千々世は吹き飛び、障子を突き破って庭へ転がった。
 春は怒ったまま部屋を出ていった。
「大丈夫か?」
 千熊丸が声をかけると、千々世が起き上がって戻ってきた。
「障子を壊して申し訳ありません」
 千々世は平手打ちを食らった時の記憶が飛び、自分が障子を壊したと勘違いしていた。

「お前は真の仁者だ」
「えっ、何それ?」
 千満丸は千々世を引き連れながら言った。千満丸は、自分をかばってくれた千々世に、心から感動している。
「お礼の代わりに、今から俺の習い事に連れていってやる。今日は初釜なんだ・・・先生、千満丸です」
 千満丸は、きれいな所作で、先生の茶室の襖を開けた。
「皆様、明けましておめでとうございます。今日は弟の千々世も連れてきました」
「おお、千々世も来たか。入りなさい」
 二人が入室すると、先生と意雲のほかに、茶人の鳥居引拙(とりい いんせつ)、松永久秀もいた。
「先生は茶道もされるのですか?」
 千々世は尋ねた。
「当たり前じゃ。そもそも、茶はわしがこの国に・・・もとい、茶は、わしら臨済宗の祖・栄西禅師が中国から持ち帰り、広めたのじゃ。今日は、この鳥居引拙が、秘蔵の茶道具を持ってきてくれたぞ。いつも以上に丁寧に扱うのじゃ」
「私の茶器もなかなかのものなのですが、松永久秀殿の平蜘蛛茶釜も大変な名物ですな」
 部屋の中央の炉には、蜘蛛が這いつくばったような形の茶釜が置かれている。
「おお、すごい!俺もほしい!俺にくれ!」
 千満丸が言った。
「これはいくらお金を積まれても渡せません。この茶釜は、私の母が、困ったときには売るようにと、私に持たしてくれた物なのです。けれども、これを手放したら、母がいなくなってしまうようで・・・だから絶対に誰にも渡さないのです」
 久秀は言った。

「父上が残してくださったものは、兄弟分のわしらがお守りしてまいりますからな。安心しなされ虎満丸殿」
 丹波・神尾山城の柳本賢治と甚次郎の位牌の前で、木沢長政(天狗)は、柳本賢治の遺児・虎満丸に話しかけた。
「六郎様は、虎満丸殿には、代官職を安堵すると申されています。六郎様にお仕えする限り、柳本家は安泰ですからね」
 三好政長も言った。
「今後もよろしくお願いします」
 5歳の虎満丸は、母と共に頭を下げた。
 政長は、神尾山城に登城する直前に、長政(天狗)から、「虎満丸を傀儡として、わしらで賢治殿の権益を分け合おうではないか」と提案されたことを思い出していた。政長は、「俺はそれほど家格が高いわけやない。それに六郎様の機嫌を損なえば、腹を切れとも言われかねん。あくまでも柳本家は六郎様の直臣とするつもりやし、何も奪うつもりはない」と答えた。長政(天狗)は「無欲だな」と笑った。
「柳本家中の方々も、今後も変わらず、虎満丸殿に忠節を誓ってくれ」
 政長は居並ぶ柳本家の家臣らに言った。
「六郎様は、元長殿に対して、甚次郎様を殺すなとお命じになられたのに、なぜ元長殿は従わなかったのだ」
「そうだ。我らは元長殿への恨みを忘れておりませんぞ」
 家臣らは恨み節を吐いた。
「六郎様は、元長らを出家させて責任を取らせたんや。六郎様は決して元長らを野放しにしているわけやない。しかし元長が下山城守護代である以上、一定の裁量も認めなしゃあない。六郎様の心中も察してくれ」
 政長は取り繕った。

「わしは、元長の出家には納得していない。あの機会に切腹させるべきだったと思っている。元長を殺せないのか。わしの心中を察してくれ」
 3月5日、堺・引接寺で、細川六郎は、丹波から戻ってきた政長と長政(天狗)に語った。茨木長隆(茨木童子)も同席している。
「とは言え、元長殿の力は強大です」
「彦九郎様も元長兄をかばわれるはずです」
「場合によっては、彦九郎共々殺してしまってもいい。わしにうるさく指図するような弟など邪魔なだけじゃ」
 六郎は言った。
「そういえば、瓦林帯刀左衛門尉から、越水城を返してほしいとの訴えが届いております」
 長隆(茨木童子)が報告した。
「瓦林の一族が築いた越水城ですからな。取り戻したい気持ちはよく分かりますぞ」
 長政(天狗)言った。
「では、瓦林帯刀左衛門尉に、元長討伐の軍勢を催促せよ。彦九郎諸共討ち取っても構わんとな」
 六郎は命じた。
(軍勢を催促したところで瓦林勢は動かないだろうから、命令には素直に従っておこう)
 政長はあえて何も言わなかった。
 その様子を、可竹軒周聡は柱の陰で窺っていた。

「彦九郎、阿波へ退去してくれぬか」
 堺・顕本寺を訪ねた可竹軒周聡は、細川彦九郎に頭を下げた。
「六郎は、元長を出家させても、まだ不満のようだ。元長の討伐のために軍勢を差し向けようとしている。わしの言うことも、大人になるにしたがって、段々と聞かぬようになってきた」
「私も元長と共に戦います」
「そんなことをしてみろ。最悪の場合、細川京兆家が滅んでしまう。お前は争いに巻き込まれないよう、阿波に戻るのだ。そして、万が一の場合には、細川京兆家の当主となれ」
「私には、そのような野心も器もありません」
「器など、六郎のほうにこそ無い。家臣の前で見苦しくも号泣して喚き散らす奴だぞ。幼い岩千代丸の惨殺には六郎の人間性を疑った。その点、お主のほうが、人間ができている。六郎は、元々、疳の虫の強い子であったが、わしの育て方が間違っていたのか・・・父親のつもりで育ててきたのだが・・・お主も息子のように思っているのだ。命を大切にしてくれぬか」
「分かりました。周聡様をもこれほど困らせるとは。兄上にはほとほと呆れました。兄上とは義絶することにいたします」
 3月13日、彦九郎は、赤沢次郎ら家臣や5千の兵と共に、阿波へ帰った。

 海船政所の管理を任されていた千熊丸は、兵の退去の対処に当たり、あらためて帳簿などのチェックをしていた。
「あれ?こんなに高い物を・・・蔵にもない・・・発注したのは久秀だが・・・」

「久秀が横領をしているかもしれません」
 千熊丸は、元長と三好一秀(瓜爺)、三好家長(柚爺)、塩田一忠に報告した。
「久秀の仕事ぶりはどうなのだ?」
「真面目そのものです。久秀のお陰で、これまでよりも安く物資を調達できていることも間違いありません」
 元長の問いに千熊丸は答えた。
「久秀は、茶器に凝っていますからね。それに使い込んだのか・・・」
 一忠が疑った。
「久秀を連れてきたのはわしじゃ。この件はわしに預からせてくれんか」
 瓜爺が願い出た。
「分かった。ひとまず瓜爺に任せよう」
 元長が言った。

「いやあ、こんなに弓が上手い奴に教えてもらえるなんて、ありがたいぜ」
「最近、ヤスは俺たちに何も教えてくれないからなあ」
「俺たちを逆恨みしているんだろう」
 海船政所で、優作たちは、三好長逸と加地又五郎から弓の手ほどきを受けていた。
「お前たちも戦力になってもらわねば。兵が随分減ったのでな。皆、なかなか筋がいいぞ」
「特に優作は見どころがあるぜ」
 長逸と又五郎は3人をほめた。
「どうじゃ、わしの軍団に入らぬか?」
 長逸が誘った。
「軍団?俺たちは瓜の爺さんに雇われているからなあ・・・噂をすれば、瓜の爺さんが来たぜ」
「小僧共、新たな任務じゃ。この歴戦の足軽『風呂敷の彦六』と共に、堺の豪商の店や、摂津・東五百住へ行って、調査をしてきてくれ」
「風呂敷の彦六?風呂敷で荷物を運んでくれるのか?」
「この風呂敷は元長様からいただいた、俺の大切な勲章だ。誰にも触らせないし、使わせない。俺はお前たちの護衛だ」
「豪商の店では帳簿などを確認する必要がある。鉄矢、お主は学があると言っていたな」
 瓜爺が尋ねた。
「ああ、寺子屋で教えられるくらいできるぜ。人という字は・・・」
「人と人が支え合っているんじゃないんだろ?」
「ネタをばらすな」
「では、お主が中心になって調査をせよ。動かぬ証拠を集めるのじゃ」
 瓜爺は鉄矢らに命じた。

「動かぬ証拠がそろっておるぞ、長政」
 河内・高屋城で、畠山義堯と家臣らは、木沢長政(天狗)を取り囲むように座っていた。
「守護代の遊佐堯家と嫡男の遊佐信家を、山伏の浄春を使って暗殺したのは、お主だな?」
「・・・」
「浄春に偽の書状をもたせ、大和の赤沢幸純を死に追いやったのは、お主だな?」
「・・・」
「浄春に、柳本賢治殿を暗殺させたのは、お主だな?」
「違う、それはわしではない!」
 長政(天狗)は、赤い顔をさらに赤くして強く否定した。
「それは違うということは、それ以外は、お主の仕業だということだな」
「・・・」
「討ち取れ!」
 家臣らは抜刀して、長政に斬りかかった。
 しかし、長政は、背中に羽でも生えているかのように、ひらりと宙に舞ってかわし、逃げていった。
「常人の3倍くらい素早い・・・」
「追え!必ず討ち取るのだ!」
 あっけにとられている家臣らに、義堯は発破をかけた。
 だが、長政は、まんまと飯盛城へ逃げ帰った。

<<続く>>

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