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勝手に大河ドラマ「三好長慶」第21章 大物崩れ

大河ドラマ

<<第20章>>

■第21章 大物崩れ

「こちら、年賀の品でございます」
「ほう、餅ですか!大好物なんですよ!」
 享禄4年(1531年)1月、播磨・置塩城で、淡路・鶴島城の城主・福良飛騨守速推(ふくら ひだのかみ はやおし)は、赤松晴政(あかまつ はるまさ)に餅を差し出した。
 晴政は、播磨・備前・美作の3か国の守護であったが、実権は守護代の浦上村宗に奪われている。
 わしのイメージでは、赤松晴政の役は、俳優の高橋英樹さんじゃ。
 福良飛は、阿波・伊沢城の城主・伊沢内匠頭赤門(いざわ たくみのかみ あかかど)と共に、年始の挨拶の名目で、晴政と面会することに成功したのであった。
「わざわざお越しいただきありがとうございます。『淡路島最高の頭脳を持つ男』と名高い福良殿にお会いできるとは。普段はどのように知識を高めておられるのですか?」
「最近は、伊沢殿と、問題を出し合って、答える遊びをしています。伊沢殿、何か例題をお願いします」
「問題。日の本の国の中で、米どころとして有名であり、冬には豪雪地帯となる、現在は、守護の上杉氏ではなく、守護代の長尾為景が実権を握っている国は?」
正解は・・・越後!
 晴政が餅を叩き、笑顔で回答した。
「正解です!」
「お見事!」
「いやあ、面白いですね・・・しかし、越後だけでなく、私の国も、守護代が実権を握っている・・・」
 晴政は、笑顔から一転、顔を曇らせた。
「晴政様、桃太郎になられては?」
「桃太郎?・・・鬼を退治せよということですか?」
「そうです」
「不埒な悪行三昧の醜い鬼を、退治いたしましょう」
「しかし、どうやって?」
「我らに秘策がございます」

「我らの策の概要を聞いただけで即断されるとは。晴政様は賢いお方だ」
「しかも、姫を人質に差し出されるなんて・・・晴政様のお覚悟は、無駄にはできませんな」
「元長様も喜ばれるはずです」
「しかし、麻姫は、ずっと歌い続けていますな」
 淡路へ帰る船の上で、晴政の娘・麻姫は、透き通る美しい歌声を響かせていた。

「長政様、将軍山に忽然と城が現れました!」
「なに?」
「どうやら高国方の内藤某のようです」
「潰せ!出陣じゃ!」
 京を守る木沢長政(天狗)は、丹波の高国派・内藤彦七と戦闘を繰り広げた。
「高国様が摂津へと進軍された。六角定頼様もわしらの味方じゃ。長政、お主に勝ち目はないぞ!」
「うるさいわ!叩き潰してくれる!」
(浄春め!細川尹賢め!何ということをしてくれたんじゃ!タダでは済まさんぞ!)

「村宗様」
「なんじゃ、晴政様。わしを『様』を付けて呼ぶなど、こそばゆいぞ」
「私は村宗様を父とお慕い申し上げております」
 富松城で、守護の赤松晴政は、家臣ではあるが、領国の実権を奪い取った守護代の浦上村宗に対して、様付で呼び、へりくだった。
「えっ?そうなの?やっとわしの偉大さが理解できたようじゃのう」
「私が越水城を落としたら、私を播磨の守護代にしていただけないでしょうか?」
「越水城は、三好の家臣の篠原之良(ゆきよし)が守っておって、落とすのに苦労しそうじゃったから、素通りしてきたんじゃ。しかし、わしらの背後を突かれても困る。あの堅城を落とせたら、播磨の守護代にしてやる」
「ははあ、ありがたき幸せ。城を落とせなければ腹を切ります」
「よし、命がけで行ってこい!」

 赤松晴政の軍勢は、越水城の前に陣を張った。
 すると何故か、篠原勢は城に火を放ち、開門して打って出てきた。
 晴政は突然、無謀にも一騎駆けを行い、篠原勢に突っ込んでいった。
 それにおそれをなした篠原勢は、船で淡路へ逃れた。
「深追いするな。城を取れればそれでよい」
 晴政は、後を追ってきた兵を留めた。
「なぜ篠原勢は打って出てきたのでしょうか?」
「おそらく兵糧が尽きたのだろう」
 そのような話になったが、実際には八百長であった。福良飛と伊沢の策である。

「越水城が燃えとるぞ」
 カニ侍・島村貴則が立ち上る煙を遠目に見ながら言った。
「やりおったか、晴政!あの堅い城を!」
 浦上村宗が感心した。
「ただのボンボンかと思うたが、やるではないか。約束どおり、わしの家臣として使うてやろう」
 村宗は晴政を信頼し、越水城の周辺の守備に当たらせ、三好勢の淡路からの上陸を警戒させた。つまり、晴政に背後を任せる状態になったのである。
 余談だが、ボンボンの「ボン」の語源は「坊ちゃん」の「坊」である。

 2月21日、元長の一行を乗せた船団が、堺に到着した。
「元長殿、待っていたぞ」
 畠山義堯が港で出迎えた。
「戦況はいかがですか?」
「浦上勢は摂津下郡を飲み込む勢いだ」
「伊丹城と池田城が何とか持ちこたえてくれれば、援軍も間に合うと思うのですが・・・」
「池田信正殿は、三好政長殿の娘を娶っている。命がけで抵抗してくれるはずだ。仮に池田を突破されても、京には私の家臣の木沢長政がいる。迎え撃ってくれるだろう」
「とにかく、こちらも準備を進めます」 

「ヤバいよ、ヤバいよ。伊丹城も陥落しちまったよ。次はどう考えても、うちだろ」
 3月、池田城で、池田信正は焦っていた。
「殿、もう囲まれています」
「えっ、マジで?」
 信正は高楼に登って城の周囲を見渡した。
「うわあ、鬼がいる。カニもいる。尹賢もいる・・・えっ、あれは薬師寺国盛様じゃん。寝返ったの?えええっ、伊丹元扶殿の嫡男の国扶(くにすけ)もいるじゃん。絶対、俺のこと恨んでるよ・・・」
 信正は、暗い顔で階段を降りてきた。
「・・・逃げよう・・・とりあえず、形だけ抵抗して、逃げよう・・・」
 3月6日、池田城も陥落した。

「殿、池田城が落ちました!」
 3月7日、京の三条城で、木沢長政(天狗)と柳本甚次郎は、伝令から報告を受けた。
 長政は、甚次郎の両肩に手をかけ、甚次郎の両目を、真顔で見つめて言った。
「逃げよう」
 長政の決断は、信正よりも速かった。
「退却だー!」
 甚次郎の声が三条城に響いた。
 木沢勢と柳本勢は、夕闇と風雨に紛れ、京から消えた。
 浦上村宗は、軍勢を分け、村宗と島村が率いる2万は、高国や尹賢らを伴い、堺の六郎を目指した。残りは摂津上郡と京の制圧を目指すわけである。

「薬師寺岩千代丸よ、最期に言い残すことはないか?」
 堺の釈迦堂で、細川六郎は、死に装束を着た幼い薬師寺岩千代丸に問うた。
 薬師寺国盛が寝返り、高国方となったため、人質の岩千代丸を斬首するのである。
 六郎は、それを見せるために、家臣とその子弟を集めていた。
「柚太郎、孫十郎、千熊丸、一緒に遊んでくれて、ありがとう。楽しかったよ」
 岩千代丸は、震えながらも、気丈に言った。
「では、わし自ら、お前を殺す」
 六郎は抜刀した。こしゃくな態度を見せた千熊丸に、人質の末路を見せつけてやりたい気持ちが裏にはあった。
 六郎は首を斬らず、岩千代丸を痛めつけるように、身体のあちこちを斬りつけた。
「裏切り者の人質は、こうなるのだ!」
 六郎は大声で言った。
 岩千代丸は泣き叫んだ。
「もうおやめなさい!」
 元長が駆け寄り、六郎を羽交い絞めにした。
「誰か介錯を!」
 元長が叫ぶと、塩田胤光が飛び出し、岩千代丸の首を刎ねた。
「俺様は、人生でどれだけ酸っぱいことがあっても、泣かないんだ・・・」
 そう言いながらも、三好柚太郎は大粒の涙を流していた。
 芥川孫十郎は既に大声で泣いている。
 千熊丸は泣かなかった。二刀流の修行の成果だろうか、泣きたい自分を、武士は泣いてはいけないと考えるもう一人の自分が押しとどめていた。

「よし、出陣だ!」
 元長が叫んだ。
 六郎方は、元長、三好一秀(瓜爺)、細川晴賢(ほそかわ はるかた)が、それぞれ軍を率いた。なお、細川晴賢は、分裂した細川典厩家の一方の当主であり、松井宗信の主君でもある。
 元長らは天王寺に陣を敷いた。
「高国・浦上方の兵は2万。対するこちらは7千です。この天王寺で敵を食い止めつつ、後方の要所に砦を築き、防衛線を張りましょう」
「さすがにこの兵力差ではそうするしかないか」
「各要所の砦が完成したら、敵方をできるだけ引き付けてください。うちの軍師たちに何か策があるようです」
「心得た」
 元長らは天王寺より北で敵軍を防ぎ、砦を構築していった。

「元長様、6月2日です」
 5月、知将・伊沢内匠頭が元長に伝えた。
「6月2日、全軍で突撃する」
 元長は各軍に指示した。

「いよいよ鬼退治じゃー!全軍突撃!」
 6月2日、桃太郎を気取った赤松晴政が叫んだ!
 晴政の軍が、浦上村宗らを背後から攻撃したのである。浦上勢の中にも晴政に呼応した旧臣が少なからずいた。
「ヒャハ?晴政が裏切っただと?」
「南からは元長の軍が突撃してきました!」
「島村、どうする?」
「こういう時は、孫氏の兵法で、背水の陣と決まっております。野里川を背にして、兵を奮い立たせ、総大将の元長を討ちましょう」
「よし、野里川まで退け!」

 浦上勢は奮戦したが、精強な三好勢に押し込まれていった。
「命がけで戦え!こら~!」
 村宗の宿老でカニに似た島村貴則は、野里川に足を浸からせながら叫んだ。
 島村貴則の背後で水しぶきが上がった。
「カニ発見!福良飛殿の読み通りだ!」
 撫養隠岐守(おきのかみ・河童)が川面から飛び出して、島村の背後から襲いかかり、水中へ引きずり込んだ。
 島村の周辺の兵も、泳ぎが得意な撫養勢の餌食となり、水中へ引き込まれた。
 指揮官を失った浦上勢は混乱に陥った。
 浦上勢の兵らの中には、三好勢の猛攻に耐えきれず、川に飛び込んだ者も多かったが、大きな河川を泳ぎ切れた者は少なく、河川を渡った者も、多くが晴政勢に討ち取られた。
 ただ、細川高国だけは、悪運強く、舟で大物(尼崎)まで落ち延びることができた。尹賢(天邪鬼)は我先に逃げていた。

 おびただしい水死体の中を、傷だらけでさまよう者がいた。浦上村宗である。
 村宗は、一匹のカニを発見した。
「島村・・・お前、島村か。恨み死んで、本物のカニに生まれ変わったのか・・・島村蟹よ、わしの命運も、ここまでかのう・・・」
 村宗はその場に倒れ、カニと戯れた。
「・・・ちょっと待て~い・・・」
 水死体の山の中から声がした。瀕死の状態の島村貴則であった。
「・・・ちょっと待て~い・・・それは、ただのちっちゃいカニじゃ・・・」
「・・・ただの・・・ちっちゃいカニ・・・」
 二人は絶命した。

「一秀様、瓜の漬物を買ってくれという者が来ておるのですが、どういたしましょう?」
「どれどれ、味見をして美味ければ買うてやるわい」
 中島城で休憩していた三好一秀(瓜爺)が腰を上げた。
 瓜爺が出向くと、大八車を引く3人の若い男がいる。3人は、そろいもそろって、閉じた唇から2本の前歯が飛び出していた。顔がネズミに似ている。
「拙者、松永久秀と申します。摂津・東五百住の地侍でございます。瓜がお好きな武将様がおられると聞き、自慢の『富田漬』をもってまいりました。一度ご賞味ください」
「どれ、少し味見をさせろ」
 久秀は小皿に富田漬を盛り付けて差し出した。
「おお、これは美味じゃ!」
「服部しろうりを、富田の酒の酒粕に漬け込んだものでございます」
「買おう、その樽はいくらじゃ」
「1貫でございます」
「おい、1貫を払ってやれ」
「足りません」
「何?」
「先ほど味見されたものは10文になりますので、1貫と10文です」
「がめつい奴じゃ。嫌われるぞ」
「そりゃあ、がめつくもなるわい!戦ばかりしやがって!摂津がどれだけ戦場になったと思ってんだ!税と兵ばかり取りやがって!俺は家族を養わなきゃならないんだ!」
「兄上、やめろ!」
「俺が偉けりゃ、もっと良い世の中にしてやるのによう!」
「兄上、口を閉じろ!」
「なかなかに熱い奴じゃ。お主、東五百住の者と言ったが、茨木長隆とどちらが優秀なのじゃ?」
「兄のほうが優秀です」
「兄は、がめついので、特に算術が得意です」
「そうか。では堺にわしを訪ねるがよい。試験をしてやろう。結果次第では取り立ててやるぞ」

「おい優作!こっちに来てみろ!このまくわ瓜、めちゃくちゃ甘いぞ!」
 鉄矢が言った。
「この『富田漬』は最高だ!」
 辰夫は感激の涙さえ流している。
「瓜がそんなに美味いはずが・・・なんじゃこりゃ~~~!!!」
 優作は、あまりの美味さに、腹を押さえ膝をついた。
「わしは今、人を探しておってのう。もし見つけてくれたら、この瓜を全部やるぞ」
 尼崎で、瓜爺は少年たちに言った。どうやらこのあたりに高国が潜んでいるのである。
「マジかよ!どんな奴だ?」
「ハゲでデブの大男で、妖怪の『ぬりかべ』のような奴じゃ」
「俺たちに任せておけよ、瓜の爺さん。すぐに見つけてやるよ」
 少年たちは駆け出した。

 高国は隠れる場所を探して尼崎の街をさまよっていた。
 「京屋」と書かれた暖簾を見て、ふと、京の都を思い出し、フラフラと中へ入った。薄暗い中を歩いていると足を踏み外し、土間に埋め込まれた大きな藍瓶(あいがめ)の中に、ずっぽりと落ちてしまった。
「俺さあ、いつかこの白い股引を、ここで藍色に染めてもらおうと思ってんだ」
 優作がそう言いながら「京屋」の暖簾を上げてみると、全身が藍色に染まった大男の高国が立ってた。
「ぬりかべだ~!」
 三人は腰を抜かした。
「辰夫、瓜の爺さんを呼んできてくれ!俺たちは見張っておく」
「任された!」
 辰夫は走り出した。

 高国は、瓜爺の兵に取り押さえられ縛られた。
「瓜の爺さん、頼みがあるんだ」
 優作が言った。
「何じゃ?」
「俺たち3人は、孤児(みなしご)だ。戦で親兄弟が死んじまったんだ。そんな俺たちが、この尼崎で生きていくためには、芸人になるか、盗人になるしかねえ。俺達3人を、爺さんのところで雇ってくれないか。見かけによらず、偉い爺さんなんだろ?」
「お前は口の利き方をちょっと直したほうがよいぞ・・・まあ、高国を捕まえてくれたからのう。わしのところで雇ってやろう」
「やったあ!」

「高国殿、辞世の句でも詠むか?」
 瓜爺は、介錯のために刀を構えながら、尋ねた。
「では・・・絵に写し石を造りし海山を後の世までもめかれずぞ見む」
「さあ、腹を切りなされ」
「ちょっと待て~い。先ほどの句は、将軍・足利義晴様に送ってくだされ。さらに一句・・・此浦の波より高く浮名のみ世々に絶えせず立ちぬべきかな」
「では、腹を・・・」
「ちょっと待て~い。もう一句・・・なしと言ひ又ありと言ふ言の葉や法の誠の心なるらむ」
「急に饒舌になりよって・・・」
 高国は、辞世の句をいくつも詠んだあと、腹を切り、瓜爺の介錯によってこの世を去った。
 余談だが、権力者であった細川高国が大物(尼崎)で討たれたため、この合戦は「大物(だいもつ)崩れ」と呼ばれている。「〇〇崩れ」には、他にも「守山崩れ」や「戸石崩れ」などがあるぞ。

<<続く>>

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