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勝手に大河ドラマ「三好長慶」第17章

大河ドラマ

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■第17章 柳本賢治の大和攻略と赤沢幸純

「何をやっているのだ、お主!」
 京の柳原御所で、「男は黙って高倉健」を地で行く無口な塩田胤光(しおた たねみつ)が、思わず声を荒げた。
「何だ?どうした?」
 胤光の怒声を聞いて、加地為利(かじ ためとし)もやってきた。
「ひえええ~」
 胤光の下で働いていた茨木長隆(茨木童子)が怯えている。
「わしらが留守の間に、勝手に地子銭を徴収するとは、どういうことだ!」
「ろ、六郎様が徴収するようにと・・・」
「元長様は承知しておられるのか?」
「・・・いいえ・・・」
「いくら六郎様のご指示とはいえ、なぜ我々に断りを入れなかったのだ?」
「・・・」
「お前、なめてるのか!」
 為利が一つ目ですごんだ。
「まさか、私腹を肥やそうとしたのか?返答次第では、斬るぞ」
 胤光は刀の柄に手をかけた。
 長隆は小便を漏らして気絶した。

「良くやった!」
 堺の引接寺で、三好政長が、茨木長隆の肩に手をかけ、激賞した。
「しかし、奉行人をクビになってしまいました・・・」
「わしの下で仕えればよい」
 細川六郎が言った。
「松井殿、これでよいのですか?」
 政長が尋ねた。
「六角定頼様によれば、これで、三好元長殿に対する将軍・義晴様の心証が悪くなるはずです」
「松井、引き続き、義晴様との交渉を頼んだぞ」
「御意」

「長政、内密の話とは何だ」
 柳本賢治は木沢長政(天狗)に尋ねた。
「この者は、山伏の浄春(じょうしゅん)といいます。大和の地理や各勢力の状況に詳しいので、道案内や間者としてお使いくだされ」
 間者とはスパイのことである。
「浄春ザンス。以後お見知りおきを。山伏の情報網で、大和の山中に隠れている勢力もすべて把握してるザンスよ」
「変なしゃべり方だなあ。生まれはどこだ?」
「播磨ザンス。家庭の事情にはあまり触れてほしくないザンス」
「有能さは保証しますぞ。ただ、わしが紹介したことは秘密にしてくだされ。わしが独自に情報網をもっていることを義堯お坊ちゃまに知られると、あらぬ疑いをかけられかねませんからな」
「分かった。で、どこから攻めればいいんだ?」
「国衆の筒井氏が、越智氏を攻撃しようとしてるザンス。その筒井を背後から突くのがいいザンス。東の山中には、赤沢朝経の残党を弟の幸純が率いて潜んでいるザンス。その幸純にはこちらから共闘を持ち掛けているザンス。最大勢力の筒井氏を破れば、賢治様に従う国衆も出てくるはずザンス。調略はわちきに任せるザンス」
「で、細川高国はどこにいるんだ?」
「そこまではまだ掴めておりませんなあ。大和の国衆らを攻めれば、そのうちあぶり出されるでしょう」
 長政(天狗)は答えた。
「それから、もう一つお願いしたいことがありまして、そもそも、義堯お坊ちゃまの本拠地は、河内の高屋城(所在は大阪府羽曳野市)なのです。ところが現在、高屋城は、敵対する畠山稙長に占拠されております。賢治殿が大和を支配されましたら、高屋城奪還のために、義堯お坊ちゃまにご協力いただけないでしょうか?」
「構わないぜ。できる限り協力してやるよ。元長以外にはな。大和と河内が片付いたら、元長も山城から実力で排除してやるよ」

 9月、満を持して賢治が2万の大軍で大和に侵攻した。
 筒井順興に攻められていた越智家頼だけでなく、古市公胤も賢治に味方し、筒井順興は大和東部の山中へ逃亡。赤沢幸純は、東から奈良盆地に入り、興福寺へ攻め込もうとしていた。
 大和国では、武家ではなく興福寺が守護職を務めている。興福寺は、国衆らに僧侶の資格を与え、荘園を管理させることで大和を統治していた。
「浄春よ、本当に我々だけで興福寺を攻め取ってもよいのか?」
「ざんす、ざんす、さいざんす。賢治様は河内攻めの準備なんかで、いろいろと忙しいザンス。賢治様いわく、幸純様にゴミの処分をしてほしいということザンス」
「ゴミとは何のことだ?」
「抵抗する僧侶共をゴミとおっしゃっていたザンス。抵抗する寺社はゴミと思って燃やしていいとおっしゃっていたザンス」
「お坊さんやお寺はゴミじゃない!燃やせるわけないでしょうが!」
「バッカじゃなかろうか!あんた、誰のお陰でここまでこれたザンス?!あんたも誠意を見せるザンス!」
「・・・それが乱世の誠意というのなら、それで恩人に喜んでもらえるのなら、次郎、俺も誠意を見せなければならんのだろうな・・・よし、やるしかねえ!野郎ども!抵抗する奴は、僧侶だろうが神主だろうが、やっちまえ!」
「おう!」
 幸純の軍勢は、興福寺へ攻め込んだ。

 10月、大和盆地を支配した柳本賢治は、畠山義堯と共に高屋城を攻めた。畠山稙長はたまらず、金胎寺(所在は大阪府富田林市)に撤退した。
「賢治殿、恩に着るぞ!」
 高屋城に入城した義堯は、はじける笑顔で賢治に礼を述べた。
「城を取り返せてよかったですね!・・・その代わりといってはなんですが、義堯様にお願いがあります」
「何でも言ってくれ」
「大和の支配については、俺に任せていただきたい」
「それはもちろんだ」
「そして・・・これから俺は、元長に戦いを挑みます。俺が勝ったら、下山城守護代は、俺に任せるよう、後押ししていただきたい」
「それは・・・」
「なにとぞ!」
 賢治は両手を合わせ、頭を下げた。
「そんなことをしても、我が方の戦力が減って、他の大名に付け入る隙を与えるだけだ。それに、元長殿ら阿波勢は強いぞ」
「できるだけ被害が出ないようにするつもりです。とにかく俺に任せて、黙って見守っていてください」
「・・・賢治殿には恩がある。ただし1回だけだ。くれぐれも被害が最小になるようにしてくれ」
「ありがとうございます!」
「ところで長政、高国はどこにいるのだ。何か情報をつかんでおるか?」
「どうやら、大和から伊賀へ逃れたようです」
 主君である義堯の問いに、木沢長政(天狗)は答えた。
「そうか。伊賀では手が出せんな」
「高屋城も大和も、攻め取ったばかりです。まずはこれらの地域の支配を盤石にすべきかと」
「そうだな」

「お前は、柳本・・・なんだっけ?」
「柳本治頼です」
「お前は・・・おい、なんだっけ?」
「柳本吉久です」
 大和の拠点で、賢治は家臣らと会議を開いていた。
 前にも書いたが、賢治は、身分の低い家臣の家格を上昇させるために、柳本姓を与えまくっていた。
「ああもう、ややこしい!誰だ、柳本姓ばかりにしたのは?」
(あんただよ)
 家臣は全員、心の中でツッコんだ。
「お前とお前と、あと後藤と木之嶋は大和に残れ。残りは俺と一緒に元長と決闘だ」
「大丈夫でしょうか?阿波勢はマジで強いですよ」
 賢治の親族の柳本甚次郎(やなぎもと じんじろう)が尋ねた。
 余談だが、「マジ」という言葉は江戸時代には既に使われている。
「確かにあいつらの強さは半端ねえな。特に政長の配下の烏天狗の奴らは妖怪じみてやがる。でも、元長自身の強さはそれほどでもねえんじゃねえか?・・・お前ら、俺が一騎打ちで負けたことあるか?」
「ないです」
「俺は天下の豪傑と謳われた柳本賢治様だぜ。一騎打ちなら誰にも負けねえよ。元長に一騎打ちを申し入れて、コテンパンにしてやる」
 余談だが、「コテンパン」の語源は不明である(諸説ある)。
「元長は一騎打ちに乗ってくるでしょうか?」
「確実に乗ってくる。そういうところは信用できる男だぜ。俺が元長を一騎打ちで叩きのめしたら、甚次郎、お前は突撃の合図を出せ。元長の首筋に刀を突き付けながら突撃すれば、奴らは退却せざるをえんだろう。もちろん、元長の命まで取りはしないがな。ハハハハハ」

 享禄2年(1529年)1月1日、大山崎で、元長と賢治の軍勢が向かい合った。
 賢治が一人、歩み出た。
「おや?賢治殿、一騎打ちをご所望か?」
「ご所望だ、この野郎!おい、元長、俺と一騎打ちをしろ!」
「六郎様のために、退いてはくれまいか」
「六郎様のために、退けねえんだよ!・・・お前のことは、戦友だと思ってたんだがなあ・・・」
「俺は今でも賢治殿のことを、戦友だと思っているぞ」
「もう言葉はどうでもいい。来い、元長!」
 元長も一人、進み出た。
「いざ」
 二人は槍で十合以上打ち合ったが、元長が巧みな槍さばきで、賢治の槍を叩き落した。
「刀で勝負だ!」
 賢治は叫んで抜刀した。元長も槍を投げ捨て、抜刀した。
 これも何合か打ち合ったが、実力の差は明らかで、賢治の刀は叩き折られた。
「この野郎!剣技だけは一丁前だな。拳で来い!」
 賢治は殴りかかったが、これまで以上に実力差が出て、賢治の顔はボコボコにされた。
 気を失った賢治を、元長は、竜巻旋風投げで、賢治の家臣らに投げ返した。
「退却だー!」
 柳本甚次郎が叫ぶと、家臣らは賢治を担いで、北河内の枚方へと逃げていった。
 元長らは、追撃することなく、ただ笑って見送っただけだった。ヤス(三好康長)は腹を抱えて笑い転げていた。

「ちくしょう・・・」
 枚方の寺内町で目を覚ました賢治は悔しがった。
「元長め、とんでもねえ強さじゃねえか」
「お目覚めザンスか?」
 浄春が部屋に入ってきた。浄春は賢治の信頼を得て、顔パスになっている。
「なんだ浄春か」
「見事な負けっぷりでしたね」
「イヤミな奴だな」
「下山城守護代は、元長がいる限り無理ザンス。大和の支配に力を入れてはどうザンスか?」
「そういえば、赤沢幸純はどうしてる?」
「罪のない僧侶まで、ゴミ扱いしてぶっ殺してるザンスよ」
「ひでえ奴だな。そろそろ攻め滅ぼすか?」
「賛成ザンス。酒を飲ませて油断させておくザンス」

「幸純様、大変です!」
「今、みんなで楽しく酒飲んでる途中でしょうが!・・・まあいい。なんだ?」
「柳本賢治が攻めてきました!」
「ええっ?」
 赤沢勢は必死に戦ったが、多勢に無勢。おまけに酒に酔っている。ほどなくして兵らは討ち果たされた。
 幸純は矢傷を負いながらも、なんとか馬で興福寺を脱出した。

「義堯様、赤沢幸純と名乗る者がお会いしたいと訪ねてきております。ひどい傷を負っております」
「・・・会おう」
 河内の高屋城にたどり着いた幸純は、息も絶え絶えであった。
「畠山義堯様ですか?」
「左様」
「わしらのことは、どのように聞いておられますか?」
「大和の山中に籠る抵抗勢力としか聞いておらぬが・・・」
「やはり・・・それは木沢長政殿からですか?」
「そうだ」
「浄春という名の、クセの強いしゃべり方をする山伏が、半年ほど前に、この書状を持ってきたのです」
 幸純は懐から血まみれの書状を取り出して、義堯に渡した。
「クセの強いしゃべり方の山伏・・・」
「浄春は、木沢長政殿の手の者です。わしも馬鹿じゃありません。調べました。どうやらわしは、偽の書状に騙されていたようです」
 義堯は書状を広げた。
「大和半国を・・・赤沢次郎殿とは?」
「三好元長殿の家臣で、わしの遠縁です」
「まったく初耳だ・・・」
「・・・義堯様、誠意って、何ですか?・・・誠意って・・・何かね・・・」
 幸純は息絶えた。

<<続く>>

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